
こんばんわ。
おなるくんです。
前回は、ラブホ勤めの終盤で「よし、やるぞ」と腹をくくったところまで書きました。
そして今回は、ほぼそれと同時に訪れた
幻の一ヶ月。
地元の居酒屋で包丁を握り、地獄みたいな日々を過ごした話です。
7月のある日。
沖縄の米軍基地時代に知り合った友人のお父さん
――まさかの地元 しかも近所に住んでいた。
内装や電機の会社をやっていて、縁あってずっと私を応援してくれる大切な人。
その人から、突然の電話。
「おなる、今日飲み行かないか?」
「いいですねー!ちょうどお店の相談もしたかったんです!」

居酒屋の暖簾をくぐると、煙と酒の匂いの中に豪快に笑う社長。
実は彼、フィリピンパブも経営していて、今度はその2店舗目として
“ガールズ居酒屋”を出すという。
「おなる、ちょっとお店の立ち上げ手伝ってくれないか。」
「えっ!」
本当は迷わず断るべきだったのかもしれない。でも、その時の私は…
恩義を感じていた社長の言葉に、どうしても背を向けられなかった。
気づけば私は地元の居酒屋で包丁を握っていました。
そう、ここからが地獄の始まりでした。
平日はラブホで朝9時から夕方18時まで。
土曜日だけは夜勤で、夜9時から朝9時まで。
その後に、居酒屋での手伝い。遅い時は深夜3〜4時まで包丁を握っていた。
(ちんぽは握れず、強制オナ禁状態!
あ”ーーーもう、めんどくせぇー!)
居抜きの店は、とにかく酷かった。準備期間もなく引き継いだので、
床はベタベタ、換気扇は油で真っ黒。まずは片付けと掃除から。
散らかった状態で、仕事を続けるのが何よりのストレスだった。
オペレーションなんて整っておらず、毎日が手探り。

そして極めつけはお客。
ツケを踏み倒すやつ、ションベンを漏らす酔っぱらい、
指が4本ないヤクザがドスを効かせて武勇伝を語り出す。
本当にロクでもない連中ばかりだった。
(マジ黙って、酒呑めーねのかよ!)
怒鳴り散らしたかった。
それでも私は、普通に飲みに来ているお客様を守りたかった。
安心して飲める場にしたかった。
毎日注意し、出禁にしたり、トラブルを止めたり。その繰り返しが一番こたえた。
(クズのテーマパークです!)
昼はラブホ、夜は居酒屋。
気づけば1日15時間以上働き、休みもなく体も心もボロボロ。
温厚な私も、睡眠不足と日々のストレスで限界寸前だった。
そんな修羅場をなんとか踏ん張れたのは――
一緒に厨房に立つ、ある相棒の存在があったからです。
タイ出身のミンちゃん。

ベッキー似で、体は小さいのにケツが立派で、いつもピタピタのデニム姿。
歩くだけで周囲の視線をさらっていく。
さらに座れば豪快に大股開き、時々パンチラをかます。可愛さと豪快さを併せ持つ、
まさに異国の魅力満載な彼女。でもただのお色気担当じゃない。
タイでは自分の屋台を切り盛りしていたらしく、仕込みも調理も手際抜群。
この店ではミンちゃんが “ママ” として全体を仕切り、
私は料理や営業の補佐する――そんな役割分担でスタートした。
つまり彼女は、この店の要だった。
ミンちゃんがいなければ、この「ガールズ居酒屋」はそもそも成り立たない。
彼女は明るく元気で、よく笑うし、おしゃべりも上手。
けれど、お客様に何か言われるとそれをずっと引きずってしまい、
表情や体調に出てしまう繊細さもあった。
そんな彼女にとって、この店での環境はあまりに過酷だった。
タイ人だというだけで軽く見られたり、セクハラまがいのことを言われたり。
ツケを払わない客や、料金に文句をつける客もいた。
――積み重なる理不尽の数々が、彼女の心を少しずつ削っていった。
深夜3時、私がラブホで夜勤の時は、必ず携帯電話が鳴った。

「おなる、私、もうやめたい…」
鼻をすする声、途切れ途切れの片言の日本語。泣きじゃくる声を聞くたび、
私は深呼吸して気持ちを落ち着けてから、できるだけゆっくり答えた。
「大丈夫!ミンちゃんは凄いよ!まだ始めたばかり。もうすぐ落ち着くよ。」
すると彼女は涙を拭いながら、「おなるが笑うと元気になる」と少し笑ってくれる。
そんな夜が何度もあった。
本当のところ、私も睡眠不足とストレスでギリギリだった。
真剣に受け止めすぎれば、自分の心まで折れてしまう。
だからこそ、できるだけ笑って、簡単な言葉で励ました。
――余裕なんてない。笑うしか、自分を保つ方法がなかった。
ミンちゃんを守るという格好いい理由じゃなく、実際は自分を守りたかった。
彼女より先に、自分が折れるのが怖かった。だから、必死に笑った。
数日後、少し持ち直したミンちゃんは、「なんとか頑張る」と口にした。
ミンちゃんのその声を、私は信じたかった。
けれど長くは続かなかった。二日も経たないうちに…
信じたかった分、複雑な思いが押し寄せてきて…
気づけば、自分ももう限界だと悟っていた。
張り詰めていた糸は、そこでプツンと切れた。
彼女がいなくなった今、そこはもうガールズ居酒屋でも何でもなかった。
ミンちゃんがいるからこそ成り立っていた店で、今後、私が一人で回す理由も気力もなかった。
「自分も早く動かなきゃ」という焦りがあったのも事実だ。
気持ちも追いつかず、私は手を引くことにした。
幸い、後任の方も見つかり、社長は引き止めることなく、
「気にするな。次は、おなるの夢を叶える番だ。」
そう言って背中を押してくれた。
器の大きさに感謝しつつ、
心のどこかでは、「このままじゃ潰れる」と自覚していたのも確かだ。
この1ヶ月で私はすっかり疲れ果てていた。

振り返れば、この一ヶ月は本当に“幻”だった。
自分で選択し、自分で動いた結果、掴めたものは何ひとつなかった。
未来のイメージは霧のように消えた。
もう一度、自分の未来を鮮明に描き直さなきゃ。
だからこそ、この街を見つめ直した。
冷静に考えれば、地元の出店希望エリアの物件相場は高く、客層は荒れすぎ。
もちろん居酒屋とチキン屋は別物だということは、理解している。
でも、ここで働いてみて気づいたんです。
若いころから飲んで、楽しい思い出もたくさんあった地元。
だけど、自分が店側に立ってみると――
あの頃は見えていなかった現実が、はっきりと見えてきた。
――やっぱりここじゃない。
街の空気も、人の流れも、この地域で店をやる未来がまったく描けなかった。
どうしても良いイメージが湧かない。
気づけば振り出しに戻っていた。
それでもこの1ヶ月をどうしても無駄にしたくなくて。無理やりでも前を向こうとしていた。
だからこそ、改めて「本当に自分がやれる場所」を探さなきゃいけない。
あーーーーマジ疲れた。
やってみないとわからないもんですなぁ。
さぁ、どこに向かいましょうか。
ではまたいつかの夜に。






